「まさか、照星さんの身内が忍術学園にいたとはなぁ」

 ユリコの散歩中、田村くんがまじまじとあたしを見つめてくる。うーん、なんだかとても気恥ずかしい。いや、あたしだってビックリしたんだよ。まさか田村くんの尊敬していた人が叔父上だったなんて。身近な人が身近な人に尊敬して尊敬されていたなんてさ。

「あたしもまさか田村くんが叔父上を尊敬していたとは思わなかったよ。若太夫が叔父上を尊敬していたのは知っていたけど……」

「一年は組の虎若か」

「うん。若太夫は佐武に戻られるといつも叔父上に火縄銃の打ち方を教わってるよ」

 今、叔父上は若太夫……一年は組の佐武虎若の実家である佐武村に身を寄せている。そのお陰で若太夫が村に戻った際はいつも叔父上に火縄銃の扱い方を教わっていて、若太夫のお父君の昌義殿はその度に拗ねてしまう。それを思い出して、あたしは苦笑した。

「……が羨ましいよ。照星さんの娘なら、いつでも照星さんに火縄銃の扱い方を教われるんだよな」

「んー……そうだね。でも、パパと呼びなさいってうるさいよあの人」

「呼べばいいのに。血が繋がっていなくとも、育ての親じゃないか。照星さん、きっと喜んでくださるぞ!」

 田村くんは簡単に言うけど、あたしにとっては難しい問題なんだよな。両親が亡くなって叔父上に引き取られた時、何で両親がいきなりいなくなったのか理解できなくて二人はいつか帰ってくると信じてた。だから、叔父上を父とは呼べなくて。
 両親が帰ってこないと理解した時にはもう呼び方が「叔父上」で定着してしまったから、「父上」などと……

「……今更恥ずかしくて呼べないし」

 ぼそりと呟いた言葉は果たして田村くんに届いたのだろうか。

「あ、ちゃんと三木ヱ門くん。丁度よかったぁ」

 田村くんと話していたら、いつも火薬委員会でお世話になっているタカ丸さんがあたしたちに駆け寄った。

「タカ丸さん、どうかしたんですか?」

「土井先生と久々知くんがちゃんに焔硝蔵の掃除を手伝ってほしいんだってー。人手が多い方がいいと思うから、三木ヱ門くんもよかったら手伝ってほしいなぁ」

 よく火薬委員の手伝いをしているあたしが声を掛けられることはしょっちゅうあった。
六年生もいなくて人出の足りていない火薬委員会だから、これが割りと頻繁に声を掛けられる。

「わかりました。田村くんはどうする?」

「私も行く。焔硝蔵にはなかなか入れてもらえないし、いい機会だ!」

 田村くんは火器が大好きで火薬委員が似合いそうなイメージだけど、会計委員に所属している。というのも、火薬委員は火薬を扱う危険な仕事があるため、田村くんみたいな火種を常に持っている人は一番危険だから火薬委員にはなれないらしい。だから焔硝蔵も普段は立入禁止なのだとか。
 まぁ、田村くんの性格では立ち入り禁止なのも頷けるかな。

「そういえば、最近よく二人でいるよねぇ。もしかして、二人は付き合ってるの?」

 突然、タカ丸さんがそんなことを言うからあたしと田村くんは目を丸くした。

「な、何言ってるんですかタカ丸さん!!」

「そうですよ! は友達です! そういう関係では……。それには私の尊敬する照星さんの姪……いや娘さんですし、手を出すわけにはいきませんよ!」

 田村くん、そこは無理に娘って言い直さなくてもよかったのに。
 あたしたちの答えに、タカ丸さんはへにょっと笑う。

「へー、ちゃんって照星さんの娘さんだったんだぁ。じゃあ、もし三木ヱ門くんがちゃんと結婚したら、照星さんの義理の息子になれるってことでしょ?」

「ね?」と首を傾げるタカ丸さん。あたしはあははと笑いながらタカ丸さんの背中をどついた。

「タカ丸さん何言ってるんですか? そういう話やめましょ、気まずくなります。ねぇ、田村くん!」

 冗談でも、言っていいことと悪いことがある! これはどう考えても後者でしょう! あたしと田村くんが結婚とか想像もできないよ。そもそも、あたしには……。
 ほら、田村くんも困って黙り込んじゃったよ。まったくタカ丸さんってば。

「…………」

「……えっと、田村くん?」

 あれ? 何かおかしい。田村くんはあたしをじーっと見て、ブツブツと独り言を呟いている。

「そうか、そうだよな。私とが結婚したら、私は照星さんの家族に……!!」

「え、……は、はいぃ!?」

 いきなり名前を呼ばれて、あたしはビクリと肩を振るわせた。タカ丸さんも田村くんの気迫に押されたのか目を丸くさせている。

「いや、……私と結婚してくれ!」

「……なんで突然そうなる、嫌だよ!」

 いきなりプロポーズってお前、それどういうことだ。というか失礼だろ! 会話の流れからして田村くんの目的は叔父上、つまりあたしはおまけじゃないか! なんてタチの悪い冗談だ。

「あはは、三木ヱ門くん大胆~。でもちゃんにフラれちゃったね~」

 タカ丸さんがへらへらと笑う隣で、田村くんはぐっと唇を噛み締めた。

「くっ……わ、私は諦めないからな!」

 真剣な顔であたしを見つめる田村くん。

「……あれ?」

 まさか、本気ですか田村くん?



執筆:13年04月26日