白銀の世界が広がる、ファンダリア。 息を吐く度に、息が白く曇る。 何枚重ね着しても、体はガクガクと震える。 港に着き、積もった雪を踏むとキシキシという音が鳴った。 以前来たときは賑やかだったこの港が、今日はしーんと静まり返っていた。 やはりこれもグレバムのせいなのだろうか。 「首都ハイデルベルグまではまだ道のりがある。 恐らくグレバムはハイデルベルグにいるだろうから、それまで体力は温存しておけ」 リオンの言葉が大きく、あたりに響いた。 私は「わかった」と返事をしようとしたが、寒さで震えて思うように声が出なかった。 「けほけほっ」 声を出そうとした瞬間、咳が出る。 やっぱり私は寒いところが大の苦手なのだなと痛感した。 「大丈夫か?」 咳き込む私を最初に気遣ってくれたのは、スタンさんだった。 スタンさんは背中を擦ってくれて、先ほどより幾らか体が楽になる。 「あ、ありがとうございます…ゲホッ」 「無理しなくていいって」 苦笑いを浮かべながらも、スタンさんは背中を擦ってくれる。 ちらりと、リオンを横目で見ると。 「まったく、足手まといだな」 と、一言言ってマントを翻した。 確かに、今の私は足手まといだ。 だけど、どうしてそんなこと言うの? いつもだったら、真っ先に心配してくれるのはリオンじゃん。 「仕方ないだろ。咳が出るのはが悪いんじゃない。」 そう言ってスタンさんは私を背に庇いながらリオンを睨んだ。 リオンも、スタンさんを睨む。 まさに、一触即発とはこのことだろう。 「まったく、スタンとリオンってば、の恋人と、交際を認めない父親みたいね。」 可笑しそうに笑うルーティさん。 その隣で、フィリアさんが悲しそうにスタンさんを見ていた。 リオンは…この旅で少し気が短くなったかもしれない。 それは…やっぱり大好きなマリアンさんと会えないからなんだろうな。 ■夢幻泡影■ 9話 届かない情念 首都ハイデルベルグに着くと、人っ子一人歩いていなかった。 ただ、雪がはたはたと降り積もるだけ。 「やけに人気が無いな。」 「もうみんな殺されちゃったのかしら」 眉間に皺を寄せながら呟いたルーティさんの言葉にフィリアさんがぎょっとする。 「そ、そんなっ」 少し声が大きかったフィリアさんを睨みつけるリオン。 リオンに睨みつけられたフィリアさんは慌てて口を両手で塞ぎ、しゅんとしてしまった。 「何もそんな鋭く睨まなくても…」 「お前は黙ってろ。」 リオンに肩を押され、私は転びそうになった。 押された肩が、少しだけ熱い。 涙が出そう。 マリアンさんに会えないからって、何で私にあたるんだよ…! リオンのバカ…!! 私の目尻に、ほんの少しだけ涙が溢れた。 『スタン、気をつけろ。敵も身を潜めているようだ。』 ディムロスの声にハッとして、私は急いで涙を拭う。 「くそっ、厄介だな…」 「すでに敵の勢力圏内ということか。」 『どうします、坊ちゃん?』 ふと、ルーティさんが辺りを見回しているのに気付いた。 その瞬間、ルーティさんは一瞬だけ嬉しそうな顔をしてその場にしゃがんだ。 「ルーティさん、サーチガルドですか?」 「ち、違うわよ。流石の私もこんなときにそんなことしないわよ。」 顔を引きつらせながら笑うルーティさん。 いや、絶対今のはサーチガルドだった。 「あ…!見てあそこ!!」 引きつらせた笑顔から、驚愕の表情になるルーティさんの指差した方角。 私たちは一斉にそこを見ると、そこには飛行竜が見えた。 「あそこに…マリーが…」 ぽつりと呟くルーティさんの表情は真剣そのもので。 「マリーさん…!」 スタンさんが、走り出す。 「おいっ、あせるな!!」 リオンがスタンさんの上着を掴んだ時、一人の男性が飛び込んできた。 その男性とスタンさんはぶつかり合い、お互いに尻餅をついてしまった。 「ちっ」 リオンがシャルを抜く…と、スタンさんは驚いた顔で叫んだ。 「う、ウッドロウさん!!」 「スタン君!?」 ウッドロウさんと呼ばれたこの男性もまた、驚いた顔をした。 私たちはウッドロウさんの後を歩く。 このハイデルベルグ城は今、グレバムの拠点となっているのだ。 最上階に、グレバムがいて、神の眼があるらしい。 しかし、マリーさんも助けなくてはならなくて。 私たちは神の眼奪還班と、マリーさん救出班の二班に分かれた。 城内に詳しらしいいウッドロウさん、リオン、フィリアさん、私が奪還班。 そして、スタンさんとルーティさんが救出班に割り当てられた。 ウッドロウさんはどうやら以前スタンさんの命を助けたことがあるらしい。 私も、ウッドロウさんの顔は前に一度見たことが有るような気がして仕方なかった。 何処で会った? 何故、会った? ああ、そうか。 セインガルド王の誕生パーティーの時に見たんだ。 ということはウッドロウさんは上流階級の人? …思い出した。 このお方は…! 「ウッドロウさん、失礼ですがあなたはもしかして ファンダリア国第一王子、ウッドロウ・ケルヴィン様では?」 私がウッドロウさんを見上げながら言うと、ウッドロウさんはニッコリ笑って答えた。 「ああ、そうだ。私はファンダリア国王、イザークの息子であるウッドロウ・ケルヴィンだ。」 「やっぱりそうでしたか」 私は失礼しましたと言いながら深々と頭を下げる。 するとウッドロウさんは困ったような顔をした。 「いや、そんなに畏まらなくてもいい。今はそれどころではないからね。」 「そうだ。今は神の眼を奪還することだけを考えろ」 リオンが、険しい表情で吐き捨てた。 一刻も早く、グレバムから神の眼を取り戻さなくてはならない。 そうだった。 早く、この任務を終わらせてセインガルドに帰らなきゃ。 帰らなきゃ、リオンはマリアンさんと会うことができないんだ。 帰らなきゃ。 帰らなきゃ。 …帰…りたく、ない…。 「さん?顔色が悪いですわ?」 「へ?」 「体調が優れないのでしたら戻った方が…」 フィリアさんが、心配そうに私を見つめている。 フィリアさんの言葉に、ウッドロウさんとリオンも、私を見つめた。 私は、首を横に振って作り笑いを浮かべる。 「大丈夫です。生きて帰れたらオムライスが食べたいなーって思ってただけで…。」 私、今ちゃんと笑えてたかな。 「そんなことか。お前は一応戦力なんだからな。」 余計な心配させるんじゃない、と、リオン。 「本当に体調が悪いならすぐに言ってくれたまえ」 無理は禁物だ、と、ウッドロウさん。 …何で、急に冷たく接するの? もう、ツライ。すごく。 「うん、ありがとう…行きましょう」 貴方の前から消えてしまいたい。 そして、私たちはついにグレバムを倒し、神の眼を取り戻したのだった。 執筆:05年8月14日 前話 / 次話 |