「父さん、母さん。ただいま。」 私は今、リーネの村の人が建ててくれた父さんと母さんのお墓に来ていた。 「今まで、来れなくてごめん。でも、やっと思い出したんだ。 私はあれから強くなったよ。父さんが生きてたらきっと父さんよりも強いんじゃないかな。 あと、料理も上手くなったんだ。母さんと私、どっちが上手いかな?特にプリンが…」 プリンという単語が出て、しゅんとなる。 リオンは、私が作ったプリンをいつも美味しそうに食べてくれてたっけ。 今頃、リオンは何をしているんだろう。 「……ううん、リオンなんてもう私には関係ない。 これからはリーネでひっそりと暮らすんだ。だから、いつでも父さんと母さんに会えるよ。」 『本当にどうでもいいなんて思ってるのかな?』 「え?」 誰かの声が聞こえたような気がして、私は辺りを見回す。 しかし、誰もいなかった。 「誰…?」 『ここだよ。今、君の腰にいる剣。』 私はそっと父さんの形見の剣に視線を落とした。 まさか…そんな。ありえない…。 シャル、いや…ソーディアンじゃないんだから。 この剣、ソーディアンなわけ…。 だって、ソーディアンは世界に6本しかないって。 ディムロス、アトワイト、シャルティエ、クレメンテ、イクティノス、ベルセリオス…。 あ、1本余ってた。ベルセリオスが。 「ちょっと待ってよ。じゃあ、あなたがベルセリオスなの!?」 『まぁ、確かに私はベルセリオスだ。しかし、私は違う。』 「ど、どういうことなの?」 『ベルセリオスは2本あるんだ。ハロルドと、カーレル…二人の人格がね。 そして私はカーレル。天地戦争では使用されなかったが、これでも立派なソーディアンだよ』 「じゃあ…なんで今頃…。もっと前から話しかけてくれればよかったのに!」 『…ついさっきまで眠りについていたからね。』 「は…はぁ?」 そっ、そういえば…この剣、コアクリスタルのシャッターみたいなのがついてたけど 本当にコアクリスタルのシャッターだったんだ…。 なんだ、私もシャルと話せるからソーディアンマスターの素質はあるなぁと思ってたけど こんなに身近にソーディアンがあっただなんて…。 「と、とりあえず…よろしく、カーレル」 『私こそ。』 …ソーディアン、か。 シャル、元気かなぁ?リオンも。 あ、そうだ。リオンなんてもう関係ないんだった。 …私のバカ。 ふと、こちらに向かって誰かが走ってくるのが見えた。 スタンさんと、フィリアさんだった。 「スタンさん?フィリアさん?どうして…」 「!!大変だ!!リオンが…!!」 そう叫んだのはスタンさんだった。 『…やはり、私が今目覚めたのは…神の眼の…』 カーレルが小声で呟いたのは、スタンさんたちはもちろん 頭が真っ白になった私の耳には届かなかった。 ■夢幻泡影■ 11話 裏切りと別れU 「ここ、ね。ここにリオンとヒューゴが…」 ルーティさんが私たちの目の前に聳え立っている建物を見上げた。 私たちは今、オベロン社の閉鎖されたはずの工場に来ている。 この工場はセインガルドの北東の小島にあり、船でしか行けなかった。 何故このようなところにきたか。 それは、リオンとヒューゴさんを止めるためだった。 あのあと、私とスタンさんはフィリアさんにリオンとヒューゴさんと同時に 神の眼までもなくなってしまったということを聞かされた。 急いでルーティさんとウッドロウさんも呼び、セインガルド王に理由を訊ねると どうやら二人はボクたちが別れた数日後に消息を絶ったらしい。…神の眼と同時に。 ということはやはりヒューゴさんとリオンは神の眼を持ち去った可能性が高い。 もしかしてと思い、私たちはヒューゴ邸に行き、 リオンの部屋で見つけたメモを見つけこの場所に来たのだ。 リオンは、私がセインガルドに帰ってくることを…予測していたのかもしれない。 メモの端に、私宛てに「すまない」と書いたのを消した跡があった。 リオン…何があったの? 私たちは急いで工場の奥へと進んだ。 どうして、神の眼を… ヒューゴさん…? さらに奥に進むと、そこは海底洞窟になっていた。 私たちの走る足音が洞窟内に響き渡る。 時折ピチャっと水面に水滴が落ちる水音とともに。 そして、私たちの目の前に現れたのは、よく知っている人… 「よくきたな、ソーディアンマスター共よ」 ヒューゴさんが、私たちを上から見下ろしていた。 「ヒューゴ!!」 スタンさんたちの形相が変わる。 ヒューゴさんはクククと喉で笑った。 「君たちの力を野放しにはしておけぬのでな。ここで確実に死んでもらおう。」 私は絶句した。 …ヒューゴさんが。 あんなに優しくて本当の父親みたいだったヒューゴさんが そんなことを言うなんて。 嘘だ。これは何かの間違い…。 「ヒューゴさん!!」 「…お前もバカな娘だ。私たちについてきていればここでのたれ死ぬことはなかったのだがな。 まさか私に拾われた恩を忘れ、裏切るとは…思ってもいなかった。非常に残念だよ。」 「そん…な…」 私はヒューゴさんの言葉に愕然とした。 不意に体の力が抜けて、その場にしゃがみこんでしまった。 「…。…ひゅ…ヒューゴォォオオ!!」 スタンさんがディムロスを抜いてヒューゴさんに斬りかかろうとした。 その時だった。 突如、槍のようにとがった地面がスタンさんを襲う。 「スタン!」 まさか…これは。 そう思った途端、冷淡な声が洞窟内に響く。 「お前たちの相手はこの僕だ」 洞窟の奥から現れたのは紛れもなく、一番会いたくないと願っていた人… 「…り…リオン…何?どうして…?」 リオンだった。 「…久しぶりだな、。お前は…僕の手で葬ってやる。」 そんな言葉が、リオンの口から出るだなんて。 リオンが…私を殺す…? 何…?私は…リオンと戦わなきゃいけないの? 「役者はそろったな。さぁ、新時代の幕開けだ!あとは任せたぞ?リオン」 「……はい」 リオンの返事を聞くと、ヒューゴさんは洞窟の奥へと進んでいってしまった。 「何やってんだよリオン!お前、自分がやっていることがわかっているのか!?」 スタンさんが必死にリオンを説得しようとしている。 しかし、それも叶わずリオンは自嘲気味に笑ってみせた。 「わかっていなかったのはお前たちの方だ。お前らはヒューゴに利用されていたんだ。 グレバムに情報を流し、神の眼を盗ませるように仕向け、王の命令で堂々と神の眼を奪う。 そう、全ては計画通りだったんだ。」 「そんなっ…」 「グレバムも利用されていたということか…」 フィリアさんとウッドロウさんが眉間に皺を寄せて俯く。 『その計画に君たちが関わってしまったのには因縁を感じるね』 『シャルティエ、知っていて…?我らが志をなくしたか!!』 シャルから出た意外な言葉に、ディムロスが声を上げる。 リオンは、じっと私を見つめていた。 そんな目で…見ないでよ。 「何でよ?何でリオンがそんなことしなくちゃならないの? どうして?リオンこそヒューゴに利用されてるだけでしょ!?」 私は震えながらも必死にリオンに向かって叫ぶ。 するとリオンはふ、と鼻で笑った。 「その通りだ。僕はヒューゴの使い捨ての駒の一つに過ぎない。」 「そこまでわかっててどうして!?」 ルーティさんが、大声でリオンに問いかけた。 するとリオンは眉間に皺を寄せて答える。 「僕には守るべきものがある。それだけだ。」 まさか、マリアンさんに何かあったのだろうか。 私の中でざわざわと不安が募っていく。 「何かっこつけてんのよ!!? そのためなら世の中がどーだっていいって言うんじゃないでしょうね!?」 「捨てられたお前にはわからないさ、ルーティ」 リオンの、冷たい言葉がルーティさんを突き刺す。 ルーティさんは目を見開いた。そして、リオンを睨む。 「それ以上言ったら…許さないわよ?!」 「許さない、か。お前など、ヒューゴにすら捨てられた身のくせに…!」 リオンのその一言で、あたりはしーんと静まり返った。 みんな、驚いている。もちろん、私も。 そんなこと、一言も聞いていない…。 ルーティさんが、ヒューゴさんの本当の娘…? つまり、リオンのお姉さん…? 「何、ゆってることが…わかんない…」 「お前はヒューゴに捨てられたんだよ。母親が託したアトワイトと共にな。 ヒューゴと僕の母クリスとの間に最初にできた娘…それがお前なんだよ、ルーティ。」 「嘘…」 ルーティさんは驚愕のあまり、その場に膝をついてしまう。 しかし、リオンは構わず続けた。 「さて、優しい姉さん。それでも僕を殺せるかい?」 リオンが冷やかに笑む。 私は、リオンのそんな態度が許せなかった。 私はカーレルを抜く。 「リオン!!お前なんか…っ!」 リオンにカーレルを振る。 しかし、リオンはシャルでそれを受け止めた。 「…、か。お前一人じゃ何もできないくせに…。 今まで僕が一緒だったから上手くいってたんだろう!」 「…うるさい!!私は今まであんたのこと信じてきた。 だけど、今のあんた、すっげぇ最悪なんだよ!! マリアンさんのこと、守れなかったくせに!そうなんだろ!? だからあんたはヒューゴさんの言うこと、聞くしかないんだ!」 「…ッ!!黙れ!!」 リオンの力が、だんだん強くなる。 私は耐え切れずにその場に転んだ。 「い…たっ」 「…あ…」 一瞬、リオンが悲しげな顔になるのを、私は見逃さなかった。 …やっぱり、今までずっと一緒だった私を心配してくれてるんだ。 「っ!!」 スタンさんが、私を助けに入ってくれた。 転んだ私を背に庇ってくれる。 「す、スタンさんっ!?」 「大丈夫か!?」 「あ、はい」 リオンと、スタンさんが睨み合う。 「スタン、やはり貴様、のことが好きなんだな?」 「…好きだ。に拒まれたって構わない。今度は…俺が彼女を守る。 もう俺は…ただ守られるだけで何もできなかった昔の俺とは違うんだ…!」 スタンさんが、真剣な表情で言った。 きっと、昔のことを思い出して言ってるんだ。 私を、守るために…。 スタンさんの言葉に、リオンは嘲笑う。 「…ふん。騎士気取りか?はは…カッコイイじゃないか。 、よかったな。スタンがお前を守ってくれるらしいぞ?」 「…っ」 もう、望みなんてこれっぽっちもない。 執筆:04年3月 修正:06年11月24日 前話 / 次話 |