教科のテストでちょっと……いや、かなり大変な点数をとってしまい落ち込んでいたら、田村くんに見つかった。

ー! どうして逃げるんだっ! ほら、早く私の胸に飛び込んでこい!」

「バカでしょ、田村くん絶対バカでしょ!!」

 どうやら慰めようとしてくれているらしい田村くん。しかしその方法が最悪だ。あたしを抱きしめる気満々だ。田村くんの自己満足だ。田村くんの欲求が満たされようがどうでもいい。そんなことされても困るだけなので、あたしは逃げ出した。
 しかし、田村くんは相変わらずしつこく、なかなか諦めてくれない。ファッキュー。

「私はただ、が元気になるようにぎゅってしたいだけだよ!」

「それ、ありがた迷惑だから!」

 そう言ってもなお追いかけてきやがる田村くん……くっそぉ、無駄に疲れてきた。残念ながら、元々体力の無いあたしにとって持久戦は確実に不利。ここは立ち止まってどうにかして田村くんを追い払う作戦に変更しよう! ……よし。

「えっ、わ……!?」

「え?……っておわーーーーっ!!」

 立ち止まって振り向いたら、田村くんがあたしに飛び込んできた。田村くんも止まろうと頑張ってくれたみたいだけど思いっきりぶつかってしまい、二人でその場に倒れた。い、痛い。

「いたた……でもようやく捕まえたぞ、! んーっ、可愛いなぁ、すりすり」

 田村くんに馬乗りにされて、そのままがばっと抱きつかれた。
 うげえええええ、ちょっと田村くん何してんの!? こんな、いつ人が通るかわからない廊下で! ていうかすりすりしてんじゃねぇよバカヤロウ! こんな危ない姿を誰かに見られたら一発で変な噂が立ってしまう! それだけは阻止せねば!

「おいいいいい!! さっさと離れろアホヱ門!!」

 思いっきり田村くんの顔を掴んで引き剥がす。すると田村くんは「は激しいな」と顔を赤く染めてそっと目を伏せながら照れた。
 うわぁなにこれ気持ち悪い。

「そもそも、どうして落ち込んでいたんだ? まさか、誰かに何かされたのか!?」

 ぱっと真面目な表情に変わった田村くん。お前……どうしてそんなにコロコロと表情が変わるんだ、忙しいな。

「いや……教科のテストの点数が思ってたより悪かっただけだから。なのでカノ子ちゃん構えるのやめてくれないかな」

 本当は田村くんにあたしが落ち込んでいた理由を言うつもりなんてなかった。
 けれど、いつのまに出したのか木製カノン砲のカノ子ちゃんを抱えて眉間に皺を寄せながら笑ってる田村くんを宥めるためには言うしかなかったのだ。
 うう、恥ずかしい。あたしがバカなのがいけないんだけど、自分でバカなのを露呈するのがすごく屈辱!そう、あたしのプライドは犠牲になったのだ。
 あたしの落ち込んでいた理由がわかった田村くんは目をぱちぱちと瞬かせて、にこっと笑った。

「なーんだ、そんなことか。それなら私が勉強を見てあげるよ」

「えっ、いいの?」

 憐れまれたりするかと思ってたのに、田村くんはそれを笑顔で「そんなこと」と言った。しかも、勉強を見てくれると……!?
 田村くんは確かに教科の成績はあたしより遥かにいい。これはありがたい申し出だ。

「この教科の成績はもちろん、火器を扱えば忍術学園ナンバーワンの田村三木ヱ門に任せろ!」

 どや顔なのがちょっと癇に障るけれど、気にしないようにしよう。お前調子乗るなよとか思ったけれど、心の中にしまっておこう。

「うん……じゃあ、よろしく」

 あたしの返事に、田村くんは嬉しそうに笑った。



※ ※ ※ ※ ※



 とりあえず図書室で勉強を教わることになった。普段、図書室は私語厳禁だけど、図書委員長の中在家先輩に許可を取ったので大丈夫だ。

「それで、どこを間違えたんだ?」

「えっと、ここなんだけど……」

「ああ、なるほどな。こういう場合は……」

 田村くんが丁寧に解説してくれる。
 おお、すごく分かりやすいぞ! なんだこれ! もしかしたら先生の授業よりも分かりやすいのではないだろうか!

「…………」

 それにしても。
 真面目な顔した田村くんはカッコいいじゃないか。こうしていれば、モテないのが不思議に思えるくらいなのに……性格が残念なんだよなぁ、ほんとに。顔はいいんだから、いつもこんな風だったら絶対モテると思う。
 それも、六年生の先輩に引けを取らないくらいにだ。

「こら、。ちゃんと聞いてるのか?」

「んー……ごめん、田村くんがカッコ良くて見とれてた」

 ぼんやりしながらそう答えてしまったことに気付いたのは、田村くんがすごく嬉しそうに目をキラキラさせたからだった。
 やばい、あたし、今なんてこと言っちゃったんだろう。今のは確実に田村くんを荒ぶらせる発言じゃないか! 焙烙火矢に着火させちゃったようなものだ。やっちまった!

「ようやく私と結婚してくれる気になったのか!! 幸せにするからな、ーっ!」

「だから! 何でそうやって話が飛躍するのかな!? バカなの死ぬの!?」

 田村くんが抱きついてこようとしたけれどそれを回避する。しかし、直後に後ろから鋭い何かが飛んできて、それはあたしと田村くんの髪を掠って壁に突き刺さった。壁に突き刺さっていたものは本の貸し出しカード……まさか。
 田村くんとあたしは顔を見合わせて、貸し出しカードが飛んできた方向を見た。

「もそもそ……」

 ニヤッと笑った中在家先輩。やばい、中在家先輩は笑ってる時が怒っている時なんだよね。笑っているということは、怒らせちゃったんだ!
 しかし、中在家先輩は何て言ったんだろう。田村くんと二人で真っ青になりながら不思議な顔をしていると、近くで委員会の仕事をしていた一年は組のきり丸くんが苦笑した。

「勉強の許可はしたが図書室で騒ぐな、だそうでーす」

「「はい、すいませんでした!!」」

 田村くんと声を合わせて謝罪すると、中在家先輩はむすっとした顔をした。




執筆:13年04月26日