いつもにこにこと優しそうに笑っている杉原君。
その笑顔はとても可愛くて、杉原君を好いている女子はたくさんいる。
私も、その中の一人だった。
あの事件が起きるまでは。

「杉原君、今日もかっこいいなぁ」

私はグラウンドでサッカーをしている杉原君を教室の窓から見ていた。
帰宅部の私は、家に帰っても暇なので今、友達の美香と談笑している。
もちろん、こんなことが口で言えたのは、今教室には私と美香しかいないからだ。

も本当に好きだね。杉原のこと。そんなに好きなら告白しちゃいなよ」

呆れながらもちゃんと笑って話に付き合ってくれるくれる美香。
「告白」と聞いて私は血の気が引いたような気がした。

「ううん、ダメ。ライバルはいっぱいいるし、やめておくわ。
それに、お馬鹿さんな私なんかが告白したって即振られるのがオチだって」

私はおどけて笑って見せた。

そう、自分に自信が無いんだ。
そんな自分が憎くて、情けなくて、悔しくて。

「バカねー、だってメガネとったらかなりの美少女じゃない。メガネが変なのよ。
いっそ、メガネとっちゃってコンタクトにしちゃえば?杉原も一目ぼれしちゃうんじゃない?」

「や、やだー…ありえないんだから、そんなこと」

絶対無理。天変地異が起きたって、ありえっこない。
そんなの、夢のまた夢。現実にはならない。

私は俯きながら手を組みながら親指と親指を交互に回す。

すると、美香は突然私からメガネを引っ手繰った。

「じゃあね!!今日1日預かっておくよ!」と言って教室を出てしまった。

「あ、え。美香!?」

私は美香の机の上を見た。鞄が無い。これは、冗談じゃないんだ。美香は本気だ。
困る。私は近眼で、最近もまた視力が落ちてよく見えなくなってきているというのに。
周りはぼやけていて、色とだいたいの形、しかわからない。
さっきまで読めた黒板に書かれている明日の日付も今は全然読めない。

…どうやって帰ればいいんだ。もしかしたら事故に遭ったりして。

「本当、どうやって帰ればいいの?」

そのとき、廊下から誰かの声が聞こえてきた。
声が、だんだん大きくなっていく。

「…だよ。ふざけんのもたいがいにしろよ、あの3年。
ぼくより下手なクセして威張ってんじゃねーよ。いつか殺してやらなきゃな」

誰かが、すごい口調でぼやいていた。何、なんなの、すごく、怖い。
このクラスの人だったらどうしよう。今、誰もここに来ないでほしい。
いつもと違うメガネのない私を見ないでほしい。なんとなく。

そんな私の願いとは裏腹に、足音と声はこの教室の前で一端止まった。
ドアの開いているこの教室。
今まさにこの教室に入ろうとしていたその人と私は目が合った。
…のかはわからないけど、きっとこっちを見てるはずだ。見えないし。
目が合ったんだと思う。その人はこちらのほうに近づいてきた。
だんだん、形がはっきりしてくる。

「…誰?」

声が聞こえたと形がはっきりしたのが同時だった。





私はまさか、と思った。





今、私の目の前にいるのはあの杉原君なのだから。

「私、は、だけ…ど…」

私は恐怖で上手く声が出せない。
だってまさか、杉原君があんなにすごい口調でぼやいてて…。

「ああ、か。メガネかけてないんだね。何でかけてないの?」

いつもはさんって笑顔で呼んでくれるのに。
今ははっきりは見えなったけれど、黒い顔でしかも開眼で、呼び捨てられた。





完全にいつもの杉原君じゃない。







「…えっと、あの。友達に奪われ…ました」

思わず敬語になってしまう。

「ふーん。トロいからね、は」

私を貶してくすくすと笑う杉原君。
もう、本気でここにいたくない。早く逃げたい。夢であってほしい。

「でさ、、ぼくの本性知っちゃったね」

私の身体がビクリと反応した。
有無を言わせない威圧感に逆らえず、素直に小さく頷いた。
杉原君が、さっきから私をまじまじと見つめてる。震えが止まらない。

「そんなに震えなくてもいいよ。へー。
ってメガネはずすとそんな可愛い顔してるんだね?ねぇ、ぼくと付き合ってよ。」

私は俯いた。これって、告白なの?
もっとも、こんな形で告白されたくなかったけれど。

それより、杉原君って、実は軽いやつだったの?

、ぼくの本性知って怖いんだろ?さらに言うと、さっきまでぼくの外面に惚れてたでしょ?」

杉原君は私を壁に押し付け、自らの手で私の両手を拘束した。
確かに、好きだった。まさかこんな人だったとは思ってもみなかったから。
怒りがどんどん湧き上がってくる。私、こんなのに外見だけで騙されてたんだ。

「確かに好きだった。今の杉原君は怖いよ。だからもう好きじゃないから放して」

私はキッと杉原君を睨んだ。
すると、杉原君は顔を引きつらせ、口元が締まる。

「お前、ムカツク」

「わ、私だって今まで騙されてて…すっごいムカツクもん!」

すると杉原君はフ、と鼻で笑った。それがとても癇に障った。

「な、何!!」

「いや、って思ってたよりおもしろくてさ。ますます気に入ったよ。力ずくでぼくのモノにしてあげる」

杉原君はクスクス笑うと、私の背中に手を回し始めた。
そして、ぎゅう、ときつく私を抱きしめた。

「何…っ、すんの!!」

「付き合うって言うまで放さない」

「誰かきたらっ」

「構わないし」

杉原君は私を抱きしめる力を一層強める。

ヤバイ。杉原君目当ての子がきたら私は…!

「放してほしかったらさ、ぼくと付き合えよ。ていうか、言わなきゃ犯す」

そう言って杉原君は私の制服の上から私の胸を揉み始めた。

って見た目より大きいんだね。着やせするタイプ?」

そう言う声が大きくて。誰かきたらほんとうにヤバイ。

「…っ!わかった!付き、合うよ!付き合うから!!」

「初めからそう言ってりゃいいんだよ」

杉原君はそういうと、私を乱暴に放した。








何で、こんなことになったのか。
どうして、私がこんな目にあわなきゃならないのか。








「言っておくけど、このこと他人にバラしたら即犯すから」

杉原君はそう言って私の首元を舐めた。
ぞわぞわする。キモチワルイ。

「メガネも、明日からかけてくんな。コンタクトにしろよ」

そう言って杉原君は私を置いて教室を出て行ってしまった。


前から、好きだった杉原君。
いつもにこにこ笑ってて、優しくて。大好きだった。
それなのに、こんな…。

私は目を細めながら教室を出た。
もう、事故ったっていいや。
夢であってほしい。夢なら早く覚めてほしい。



執筆:03年12月06日