馬になってしまったミーティア姫が引く馬車が、ガタゴトと音を立てる。
馬車の上には、モンスターの姿になってしまったトロデ王が眠たそうにしている。

そうしているうちに、トラペッタの町の門が見えてきた。

「ようやく着きましたでげすね、兄貴。」

ヤンガスが、エイトの隣で疲れ果てていた。
だらりと両手を垂らして、とぼとぼと歩いている。

ヤンガスとは、私たちが旅に出てしばらくしてから出会った。
きっかけは、山賊だったヤンガスが私たちを吊り橋の上で襲ったこと。
ヤンガス自らの攻撃の衝動で、橋から落ちかけたヤンガスをエイトが助けた。
ヤンガス曰く、「優しいエイト兄貴に惚れ込んだからついていく」だそうだ。
私はべつに被害がないのであればいいと思ったし、エイトも承認していた。
ただ、トロデ王だけは、ヤンガスのことが気に食わないらしい。
しかし、戦力になればいいと言ってくださり、トロデ王も承認してくれた。

「おぬし、元山賊なのに案外体力がないのだな。」

皮肉に笑うトロデ王を見て、ヤンガスは額に青筋を浮かべる。
私は慌ててトロデ王とヤンガスの間に割ってはいる。

「トロデ王。ヤンガスは私たちの中で一番戦闘で活躍してくれているんですよ。」

お言葉ですが、疲れて当然だと思います。

すると、トロデ王は「が言うなら・・・」と言ってプイっとヤンガスから目を背けた。
ヤンガスも負けてたまるかといった感じで、トロデ王から目を背ける。
私とエイトは、そんな二人を見て苦笑した。

ミーティア姫は馬車を引きながら前へ前へと歩き続けていた。

















■Innocent victims 2話■


















旅の途中、私たちはトロデーン城を滅茶苦茶にした犯人、ドルマゲスの情報を得た。
ドルマゲスは、トラペッタの町に住むライラスという七賢者の末裔の弟子だったそうだ。
そこで、もしかしたらライラスさんがトロデ王とミーティア姫の呪いを
解けるかもしれないと思い私たちはトラペッタの町に向かった。
呪いが解けることを願って・・・。

そして、ようやく到着したトラペッタの町。
町の門を目の前にして、ミーティア姫はヒヒーンと鳴いた。

「わかってはいるかと思うが、わしと姫はこの姿じゃ。
わしらは町の外で待っているからマスター・ライラスを見つけたらここに連れてくるのじゃぞ」

トロデ王は馬車を町の門の前に止めて、馬車からちょこんと降りる。
そしてミーティア姫を愛しげに撫でると、「頼んだぞ」と。

「任せてください。」

私たちはトロデ王にそう言い残して町の門を開けた。










トラペッタの町に入ると、すぐにライラスさんを探し始めた。
しかし、町は意外に広く、どこがライラスさんの家だか全く見当がつかない。

「じゃあ、手分けして聞き込みをしようか」

これといって目ぼしい情報もないので、まずは情報収集から始めることになった。
エイトの言葉に、私とヤンガスは頷いて、それぞれ踵を返した。
前に一歩、歩みだすとエイトが「」と私を呼び止めた。

「どうしたの?」

私が訊ねると、エイトは心配そうな目つきで私を見つめる。

「ほら、やっぱりは城でミーティア姫の世話ばかりしてただろ?しかもドジだし。
だから、こういうことは馴れてなさそうだから。不安なら一緒に探さないか?」

恥ずかしそうなエイトの表情。
ちょっと私をバカにしているようにも聞こえるけど、もしかして、気遣ってくれてる?

エイトの言うとおり、確かに私は生まれて物心がついた頃からミーティア姫の傍にいた。
10歳を過ぎてからは年の近いミーティア姫のお付者とお世話役をしている。
だから、こういうことは初めてだ。
でも・・・

「ありがとう、エイト。心配してくれるんだね。でも、私は大丈夫だよ。」

多分。

「そ、そっか。それならいいんだけど・・・。」

道に迷うなよ。
恥ずかしそうに頬を赤く染めたエイトはそういい残して走っていってしまった。
・・・本当にありがとう、エイト。
せっかく女の私と一緒に、しかも二人で歩き回るのを覚悟してくれたのに、ごめん。

一人で町を歩くことなんて初めてで、少しだけ不安だけど
私も旅に出た以上はみんなに迷惑をかけないように頑張らなくちゃ。
今までの生活と違って甘えられないんだ。
こういう機会を利用して自立していかなくちゃまたバカにされるんだわ。

・・・でも、どうやって人を探したらいいんだろう?
やっぱり、町の人に尋ねるのが一番、だよね。

ああ、でも危なそうな人には話しかけないようにしなくちゃ。

ん。ちょうど私の目の前に人が。
あれは・・・本で見たことがあるマイエラ修道院の聖堂騎士団の制服?
どうしてこんなところにいるのかはわからないけれど
この人なら修道関係の人だから安心かも。

よし、訊いてみよう!

「あの・・・」

初めて城の者じゃない人(ヤンガス以外)に話しかけるので、ドキドキする。
城の者は安心して話しかけることができるけれど、ここは知らない場所。
ああ、ドキドキする・・・

聖堂騎士団の人が、一つに束ねてある銀髪の長い髪を揺らしながら、私を見た。

「はい?」

整った顔立ち、いかにも戦ってますという雰囲気。
これが、聖堂騎士団・・・。
城の兵士に負けず劣らずかっこいいな。

私はなるべく平常心を保ちつつ訊ねた。

「この町に住んでいるというライラスさんという人を・・・」
「まさかこんな田舎町で逆ナンされるなんて思わなかったよ。
嬉しいな、君みたいな可愛らしい子に逆ナンされるなんて。」

聖堂騎士団の人は、私の言葉を遮って
いきなり私の手を取ると、極上の笑みを浮かべた。

ぎゃ・・・逆ナン?
逆ナンって、女が男をナンパすること、だよね。
何?私がナンパ?この人に?ちょっと訊ねようとしただけなのに?
ていうか、話しかけただけなのに?

「私は逆ナンじゃなくて人を・・・」

一体、この人は何なのだろうか。
ナンパなんて言ってる人が、本当に修道関係の人なんだろうか?

ああ、もう最初ッから危ない人に話しかけちゃったし。
私って人を見る目、ないのかなぁ?
あー、もう泣きたいよ。今すぐこの場で泣きたいよ。
どうして私が逆ナンなんかしなくちゃなっらないのよ。勘違いしないでよ。
こんなことならあの時素直にエイトと行けばよかった。

「・・・・・・」

「ごめん、嘘。えっと・・・ライラスさん、だっけ?」

聖堂騎士団の人は、泣きそうになった私を見て慌てて声のトーンを下げた。
しかし、すごく優しげだ。今度は真面目に聞いてくれるらしい。

でも、こんな変な人に訊ねるくらいなら他の人に聞こう。

「やっぱりいいよ。他を当たるよ。」

私は踵を返した。
が、すぐに肩をつかまれた。

「わかった、わかった。ほんと冗談だったんだって。
オレはククール。見てわかると思うけど聖堂騎士団員だ。」

以後お見知りおきを、とククール。
突然手を取られ、手の甲にキスを落とされる。
まるで王子様みたい。ちょっと、ビックリしちゃった。
こんな、手だけど、キスなんてされるの初めてだし・・・。

「えっと・・・。私は・・・。」

照れた顔を見られたくなくて、私はソッポ向きながら自分の名前を言った。
ククールはそんな私を見てクスクスと笑っている。

は、恥ずかしい。

・・・。君にぴったりのいい名前だね。」

どんな名前だよ。
私を褒めているつもりだろうけど、この名前は私の親がつけた名前。
だから名前を褒められても別に嬉しくもなんともないんだけどな。
心の中で突っ込んだ私は眉を顰めた。

「そんなことはどうでもいいの。ライラスという人がこの町に住んでいると
聞いたんだけど、ライラスさんがどこに住んでいるか知ってるかな?」

「そんなことって・・・」

苦笑するククール。
ククールは頭を掻き、「ライラス・・・」と呟いて真剣な表情になった。
今度は本当の本当に真面目に答えくれそうだ。
・・・次にふざけたことを言ったらメラゾーマ食らわしちゃうんだから。

「マスター・ライラス・・・残念だけどあの人は死んだよ。」

「え・・・」

一瞬、頭の中が白くなった。

ライラスさんは既に死んでいた。

トロデ王とミーティア姫の呪いは?
せっかく戻すことができると思ったのに。
また振り出しに戻るの?
何か、何か手がかりは・・・。

「その話、詳しく聞かせてもらえない、かな?」

自然と、声が震える。
ククールはそれを不審に思ったのか、戸惑いながら話を続けた。

「ああ。なんか・・・ライラスは火事で死亡したらしいぜ。
数日前にやってきた怪しい道化師がライラスを殺したって噂もあるけどな。
で、オレたち聖堂騎士団はそのライラスの冥福をわざわざお祈りに来たってワケ。」

「わざわざこんな遠いとこまでな」と苦笑するククール。
それにしても、あの怪しい道化師っていうのはやっぱり・・・。

「ドルマゲス・・・か」

私は小さく呟いた。
私たちに邪魔されないようにライラスさんを殺したの?

・・・許さない。
何が目的なのかはわからないけれど・・・私はドルマゲスを許さないんだから。

「・・・おい?どうかしたのか?」

ククールが心配そうに俯く私の顔を覗き込む。
でも、もうククールに用はない。
事情を話して、巻き込まれて欲しくもない。

「ううん、なんでもないの。ありがとう。それじゃ。」

「あ・・・・・・・・・ああ。」

私はククールに頭を下げて、その場から離れた。
ライラスさんが亡くなったことがわかったら、次はドルマゲスの居場所を突き止めなきゃならない。
この町にはもういないみたいだし・・・どうしたらいいんだろう。
やっぱりまた、情報収集、かな。

でも今度はエイトと一緒に情報収集しようっと。











「ライラスさんはドルマゲスに殺されたという噂があるらしいです。」

約束した時間、一旦町の外に戻った私、エイト、ヤンガスはお互いに集めた情報を報告しあう。
トロデ王は唯一の頼み綱であるライラスの死を知り、残念そうに俯いてしまった。
ミーティア姫も悲しげにヒン、と鳴いた。

「元気を出すでげす!!ドルマゲスの居場所、わかるかもしれないでがす。
あっしの集めた情報の中に、この町にはルイネロという占い師がいるらしいでげす。
そのルイネロにドルマゲスの居場所を占ってもらうというのはどうでげしょう?」

ヤンガスが、ガッツポーズをとって、雰囲気を盛り上げる。

「それなら僕も聞いた。けど、ルイネロって占い師、
昔は凄腕だったらしいけど今じゃ全然当たらないそうだぞ?」

エイトが横に首を振った。

「ある日突然、当たらなくなったそうでげす。何かワケでもあるんじゃないでがすか?」

「だとしたら、また希望はあるかもしれないな。
よし、お前たちでちぃと調べて来い。わしと姫はまたここで待っているからな。」

トロデ王は「早く、早く」と私たちを急かした。

再び町の中に入り、今度はルイネロの家に向かう。
ルイネロの家は念のため、とエイトが調べておいたらしい。
さすがはエイト。やっぱり私と違ってこういうのに、馴れているのかな?

「ヤンガス、ちょっと先に行っててくれないか?
ちょっとと二人で話があるんだ。これ、地図。僕はもう覚えたから。」

エイトはヤンガスにルイネロの家の地図を手渡した。
ヤンガスは「わかったでがす」と答えて、行ってしまった。
ヤンガスがいなくなってしまったため、今ここには私とエイトの二人しかいない。
もう暗くなってきたせいか、人通りは少ない。

「話って、何?」

「さっき、階段の上から見えたんだ。
、聖堂騎士団員のヤツに絡まれてなかったか?」

まさかエイトに見られてたなんて思わなかった。
・・・も、もしかして手の甲にキスされたところとかも見られてた!?

まさか、ね。

「ぎゃ、逆ナンされたと勘違いされただけで。別に絡まれてないよ。」

「・・・・・・そっか。ならよかった。でも、危ないから今度からは僕と一緒にいなよ?」

「う・・・うん、私もそっちの方がいいと悟ったよ。」

もう逆ナンだと思われたくないし。
エイトがいれば、とても頼もしいしね。

「一応、僕もトロデーン国の近衛兵を務めてたから一人くらいは守れるから。」

安心していいよ、とエイト。

「へー、近衛兵・・・」

すごいなぁ、近衛兵かぁ。
・・・ちょっと待って。
近衛兵って結構高い地位にあるんじゃ・・・!?

「近衛兵!?エイトがッ!?」

「そうだよ?・・・やっぱり知らなかったか。はドジなばかりでなく鈍感だね。」

あはは、と可笑しそうに笑うエイト。
近衛兵といえば、王を守る存在。兵士の中でも結構高い地位にあたる。
当然、王を守るなら玉座の間にいたわけで。
私もミーティア姫のお付者だから玉座の間にいて。
それじゃ、いつもミーティア姫の傍にいた私は何気にエイトとよく会っていたってこと・・・?

私、本当にドジで鈍感かもしれない。

「いつも、ミーティア姫と楽しそうに話してるのこと見てた。
は何だか見てて飽きないよ。やっぱドジだからかな?」

「ドジ、ドジって言わないでよっ!!いくら本当のことでも傷つくって!
何やら途中まで感動的なセリフだったのに後半のその酷いセリフは何さ!!」

一瞬「エイト・・・?(ドキッ)」なんてときめいてしまった自分はなんだったのか。
私のときめきを返せ・・・っ!!

「ほら。いつまで突っ立ってるの。そろそろ行かないとヤンガスが可愛相だよ?」

エイトは私の手を引っ張って、楽しそうに走り出した。

「エイト、意地悪」

私は苦笑しながら、エイトに引っ張られながら走った。





執筆:04年12月8日
修正:05年4月29日